ハナモミジ

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【ディプロマ便り】ひなたいろ

「この辺ちゃう?」

タクシーを降りスマホのMapが示す先へ顔を向けると、広い敷地に大きな倉庫のような建物が見えた。

建物の周りには果樹や田んぼが広がり、空も広い。ここは大阪だったよな… と疑いたくなるほど穏やかな風が吹いていた。大阪って広い。

ここを訪れたのは梅雨明けを目の前にした6月の終わり。田んぼを満たした水がキラキラと輝き、稲も風に揺れて気持ち良さそうだった。

 


今回取材に協力してくださったのは、大阪府和泉市にて花屋『hinatairo』を営む藤原教子さん。

ここ河内(かわち)という地域は、だんじり祭りで有名な岸和田市の隣に位置し、“こどもだんじり” 祭りという伝統的なお祭りが開催される、歴史ある町だ。

そこで藤原さんは現在21歳の長男と19歳の長女、3匹のワンちゃんと共に暮らしている。

元々は店名を『Swamp Ash(スワンプアッシュ)』として目と鼻の先にある建物で花屋を営んでいたが、昨年店名を『hinatairo』に変え、この場所に移した。

 


 

新たなスタート

建物に大きく掲げられた『福祉農園』と書かれた看板が目をひく。

藤原さん:「うちは福祉の施設をしてまして、父が立ち上げてもうすぐ25周年。もともとここは農業倉庫で、トラクターとか入っていたんです。けれど、施設で障害者さんたちが育てた野菜を販売したいのになかなか稼働できずにいたんですね。

そこで、ここを改装して花屋を移転させたら野菜の直売所もいっしょにスタートできるんじゃないかと思って。たまたまコロナで、以前のお店が狭くてちょっと広げたいなと感じていた時期も重なって。」


改装された店内はむき出しの部分も多く、倉庫の無機質さと花の華やかさが相まって粋な雰囲気がある。

店頭には花苗が並び、その脇には直売所が設けられ、花屋と福祉施設が同居しながら営みが続けられていた。

今は双方の運営に携わっているという藤原さん。一日の仕事量を想像しただけでも体が足りなそうだが、これまでどのような人生を歩んできたのだろう。

 


 

切り花と花苗

藤原さんはお若い見た目に反して花屋歴は20年と、意外にも経歴が長いことに驚く。

雑誌や広告からお気に入りのデザインを切り抜いてはスクラップ帳を作ることが楽しみだった幼少期。大学はインテリアコーディネーターを目指し建築学科へ進んだが、入学後アレンジメントに出逢ってお花の世界にハマり、卒業後に建築の仕事に就くも1年で退職。花屋に就職することにしたのだとか。

しばらくして元旦那さんと花屋をこの地で開業し、今は新たな仲間とお店を切り盛りしているという。

ーー 切り花がメインですか?

藤原さん:「そうですね。最初花屋をはじめた時は、切り花と花苗の両方をやっていたんですね。まだギャザリングもない頃に、苗ものって限界を感じるじゃないですか。寄せ植えをしてもなんかね、綺麗になるまで時間がかかったりとかね。」

ーー ブリコラージュフラワーとはどうやって出逢ったのですか?

藤原さん:「インスタグラムですかね。小森先生の作品をはじめて見た時に「アレンジメントかな?」と思ったので、その時の衝撃が忘れられない。ちょうどまだ小森先生が滋賀教室を開催していた頃に、関西にあるわ~と思ってなにも考えずに申し込んだんです。関西って滋賀なんやと思って(笑)」


▲藤原さんのブリコラージュフラワーは、どこか切り花のアレンジメントのような雰囲気

ーー アレンジメントとブリコラージュフラワーの両方をされていて、共通するところや反対に異なる感覚はありますか?

藤原さん:「共通するところはお花の組み合わせだったり、ここにこれを入れたらおさまるなとか。そういう部分は本当にアレンジメントと一緒で。

異なるところは、ブリコラージュフラワーは習っていた最初の1年はいっぱい枯らしました。やっぱり土を落としすぎたりだとか、夏場は特に。切り花は挿し方だけの問題で枯らさないじゃないですか。だいたいこれぐらいで終わるというのが分かるし、それぐらいの期間は間違いなく咲いてくれるというか。」

ーー 花苗は育てるというところがあるからですね。

藤原さん:「そうなんですよね。ちょっと最初は自信がなかったですね。寄せ植えに戻そうかとか(笑)でもやってよかったなって思いますけどね。」

 

切り花と花苗、どちらのよいところも難しいところも理解しているからこそ生み出せる藤原さんのカラーがあるのだと感じた。

 


 

やりがいに変えていく

花屋歴20年。そこだけを見ればさも順風満帆に見えるものだが、話を聞くと花屋と福祉施設の両立はそう単純でもなさそうだ。

藤原さん:「やっぱり福祉施設って利用者さんの工賃を稼いであげないといけなくて。それがやっぱり直売所の売上だったりするので。」

ーー ただ作って売るだけじゃないんですね。

藤原さん:「そうなんですよね。だからちょっと売り方を考えてあげないと。」

ーー そういった仕組みづくりもされているんですね。

藤原さん:「そうなんです。だから今はお花の苗とかも作っていて。種を植えて育てて、それを花屋で買い取ったりとか。簡単なものしか作れないですけどね。できそうだなと思うものは利用者さんに植えてもらって水やりしてくれて。でもいっぺんに出来すぎてしまった時は、ちょっと他のお花屋さんに声を掛けて買ってもらったりしています。」


シロタエギクやパンジービオラ、ジニア、マリーゴールドなど、種から自分たちで。

ーー この中で循環しながらやっていくことに意味がありますね。

藤原さん:「今近くに施設がたくさん増えていて。そうなると利用者さんの取り合いになったり。うちも職員さんのお給料などは利用者さんが来てくれて払えるので、利用者さんを増やしていくことが一番メインなんですね。

そしたら利用者さんはどこで選びはるかといったら作業内容。お野菜を作っているのがいいなと思ってくれる親御さんもいれば、そんな畑仕事なんてさせたくないという親御さんもいらっしゃるし。やっぱり特徴を出していかないとなかなか来てもらえなくて。」

藤原さん:「今、全体で60人ぐらいの利用者さんが施設の中に居てるんですけど。毎日二人ずつ交代でお店番をしてもらって、あとの何人かは水やりしたり農作業をしたり。でもやっぱり昔に比べたら減ってはきていますよね。」

 

藤原さんとの会話の中で、「私もやっぱり花屋だけしときたかったとこもあるんです。花好きやったんで。」と発した言葉が印象的だった。

誰でも好きなことだけやっていられたらそれ以上のことはないが、置かれた環境で試行錯誤しながら間を取り、それすらもやりがいに変えていく。その力が藤原さんの魅力に思えた。

 


 

ぽかぽか、ほのぼの

「(藤原さんは)芯が強い。こうしようと思ったらそれに向かっていく。お花だけでなくセンスがめちゃくちゃあるんですよ。たまにズッコケる時もあるんですけど(笑)」

こう話すのは、花屋でいっしょに働く髙橋弥生さん。もともと藤原さんとはママ友で、一緒に働く同年代のスタッフさんのひとり。写真を撮らせてくださいとお願いすると、「ちょっと待ってください!美容院行ってきていいですか⁉︎」と冗談が飛び出すゆかいなお方。

ここで働くスタッフさんは皆お花に関わる仕事ははじめてと言うが、おふたりの会話から和気あいあいな様子が伝わってくる。

ーーはじめてお花屋さんで働いてみていかがですか?

髙橋さん:「自分で作ったりはまだまだやけど、お客さんがすごく喜んでいるの見ると自分も嬉しくなる。皆さんお花が好きな方ばかりでお花を見て癒されていて。レッスンも楽しんでやっている姿を見て、それを一緒にできることがすごく嬉しいです。はじめはどうやろうと思ったけど、ここを経験して良かったなって。」

 

途中、お店に常連さんが数名やって来た。
「植え替えをお願いしたくて。」と気軽に町の人が訪ねてくる、そんなお店であることが伝わってきた。

店内は賑やかな笑い声でいっぱいになり、お客様のワクワクした感情がこちらにも伝わってくる。
冗談を言いながら笑顔の絶えないその空間は、まるで陽だまりのようだった。

「あぁ、これか。」お店を運営する上で大切なこと。店構えでも商品の豊富さでもない、それ以上に大切なのは、スタッフが心ひとつにお客様を真心でお迎えすること、お客様が心から癒され楽しめる空間をつくることなんだと、改めて感じた。

 


 

そろそろ
栗の収穫時期だねぇ

多くの業務に日々追われながらも歩みを止めない藤原さんが、未来についてこう語ってくれた。

藤原さん:「花屋と直売所だけだとほんとに弱いので。コンテナ3つくらい建てたら3軒くらいお店を開けるかなと思って。」

今は駐車場としている店舗前の広い敷地にコンテナを建て、そこで繋がりのある方にお店を開いてもらおうという計画だ。

藤原さん:「店舗裏の畑では桃や梅、すももを収穫したり。栗も植わっていて、いっぱい採れすぎてしまったら直売所で売れる範囲じゃなくなるので、ちょっとジュースを作ったりできたらいいなと思って。」

藤原さんはきっととどまることはないだろう。
それは単なる好奇心ではなく、施設の運営と花屋の存続という目的に加え、地域のまちづくりにも一役買いたいとの想いが見える。

現状に満足せず更なる理想を求め、それに賛同する仲間が集まる。それがこれからのhinatairoをつくっていく。

 

最後に、藤原さんへ『hinatairo』という店名に込めた思いを聞いた。

藤原さん:「私、本当はもう一人下に子供がいるはずだったんですよ。でも産めなくて。私の中で勝手に“ひなたちゃん”って名前を付けていたんです。もうね、上の子たちはそれぞれ自分の道で走り回っているのになんかかわいそうやなと思って。ちょっとその子の場所を作りたいなと。

それでなんとなく「ひなた色って何色なんやろ」って想像して。それぞれ思う色があっていいかなと思った。」

 

何色とも表現できないひなたいろの空間が、いつもそこにある。

(つうしん部 よっしー)

 

hinatairoでは季節のお花を使った生花のアレンジメントレッスン、ブリコラージュフラワーレッスンを開催しています。
心がぽわっとあたたかくなる空間へ、ぜひ足を運んでみてくださいね♪

住所/大阪府和泉市池田下町302
電話番号/0725-57-0878
Instagram/@hinatairo0717

2022.08.22

よっしー yoshi


ハナモミジ / 編集・オンラインショップ【好きな食べ物】いちご、モンブラン、韓国料理【趣味】BTS
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